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ぬで島次郎 2000.12.20

【衆院で可決されたクローン法案について】
 第一に、民主党は、対案を出しておきながら些細な修正に応じた、党としての政治
姿勢が疑われる。参議院では、筋を通してほしい。
 手続き規定だけで倫理のない法案が通ってしまった。付帯決議に盛られた倫理原則
こそ、法律本文の実質を成すべき内容だ。
 修正された附則の趣旨からして、また厚生省生殖医療報告書案も「3年以内に法整
備、胚の実験利用については他の機関(どこ?)で要検討」と言っているので、生殖
医療と生殖医学研究とその他のヒト胚等の作成・使用に関して一本化した規制(法案
)を3年後をメドにつくる、その際はクローン法は廃止、という方向が望ましいこと
が認められたと受け取っている。要するに今回衆院を通過したクローン法案は、それ
までの3年限りの時限立法である、ということだ。
 生殖医療の厚生省の結論も待って、会期わずかな今国会では、継続審議にすべきだ。



 

参議院文教・科学委員会 クローン法案 参考人 意見要旨 2000.11.24.NEW!

「クローン法案」の問題点と望ましい代案

 木勝(ぬで)島次郎(三菱化学生命科学研究所)
 

1 人クローン禁止のしかたが、人の生命の尊厳の十分な保護にならない

*一部「特定胚」の母胎への移植だけを禁じ、クローン類似研究を広く認めた、世界
でも珍しい「クローン研究容認法」である。
 科学技術会議小委員会答申の線を一部超え、文部省告示の線も超えている。

*科学技術会議の施策は、同じ人の生命の始まりを操作する研究でありながら、クロ
ーン等だけ法規制、胚性幹(ES)細胞研究は法規制から外して行政指導のみで規制、そ
れ以外の生殖医学などのヒト胚作成・使用研究は公的には無規制、というトリプル・
スタンダード。これも日本だけの、「倫理の使い分け」。

*「クローンはクローンだから禁止」では不十分、認められる人の生命の操作の範囲
を超えるから禁止。政府法案がいう「コピーされない」「他の動物と混ぜられない」
だけが人の生命の尊厳か。生殖医療、生殖医学も含め、どこまで人の生命の操作が許
されるのか、議論が必要。政府「クローン法案」は、そうした必須の検討を回避して
いる。
 

2 人の生命操作に対して倫理がない法案

*一般人はおろか専門の研究者にも理解不能な用語と手続きだけを定めた法案で、倫
理がない。届出制にしていても判断基準が示されていない。

 具体的な倫理原則は、付帯決議にしかない → これらは法律本文に盛り込むべき 

*こうした法案が通ると、たとえば、日本では人の胚や卵を売り買いしても法律で罰
せられない国だと宣言するに等しくないか。臓器の売買は移植法で禁止されているの
と矛盾。

*厚生省生殖医療規制案は、胚の提供を認める方向。科学技術会議も、クローン法案
とは切り離して、ES細胞研究のために人の胚の提供を認める。
→ 不妊治療目的での他のカップルへの提供と、生殖医学研究目的での提供と、それ
以外の研究目的での提供と、どれが優先して、どういう順番で誰が説明と同意を取る
のか。どちらの審議会も、そうした場合を想定しておらず、ルールがない。このまま
では現場が混乱し、胚の取り合いにもなりかねない。
 

3 クローン禁止だけでは対応不能、本来あるべき筋の規制を

*クローン禁止=ヒト胚研究規制の一環、ヒト胚研究規制=生殖補助技術規制の一環
、というのが本来あるべき筋。ほかの先進諸国の筋。日本だけが違う理由はあるだろ
うか?

*衆院での見直し修正と付帯決議で、クローン禁止だけではだめで、上記の包括的規
制の必要性が認められた。3年後といわず今から、来年にも実現すべき。ぜひ継続審
議を。



著者の連絡先:
ぬで島次郎
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以上