大阪府立大学人間社会学部人間科学科森岡研究室学生レポート (2007年度)

東京ディズニーランド

:リピーター率が高い理由

菊井亜妃子


 

0.はじめに

 

 来場者数に伸び悩み、多くの遊園地・テーマパークが閉園に追い込まれる時代。そんな時代の流れに逆らうかのように、どんどん来場者数を伸ばし続けるテーマパークがある。それが東京ディズニーリゾートである。東京ディズニーリゾートはディズニーランドとディズニーシーの2つのパークと周辺の東京ディズニーリゾートオフィシャルホテル、それからイクスピアリを合わせたものである。2006年度の東京ディズニーリゾートの来場者数は25,816千人であり2005年度の24,766千人に比べ1,050千人の増加(前年度比104,2%)で過去最高の来場者数を記録した。ここから推測すると、東京ディズニーランドには年間約13,000千人が訪れると考えられる。なぜ、ここまで東京ディズニーランドは来場者数が伸びるのか。それはリピーターの多さにあると思われる。東京ディズニーランドのリピーター率は90%を超えている。では、東京ディズニーランドはなぜそこまで人を惹きつけるのか。もう一度行きたいと思わせるのか。ミッキーマウスやミニーマウスなどのキャラクターに会いたいから、アトラクションに乗りたいから。人々が何を求め東京ディズニーランドへ訪れるのか。また、人々の求めているものを東京ディズニーランドはどのように実現しているのか。東京ディズニーランドに訪れるお客側と訪れられる従業員の側、両側から検討していくことにする。

 

1.人々はなぜもう一度東京ディズニーランドに行きたいと思うのか

 

 この章では、アンケート結果を基になぜもう一度行きたいと思うのかを考察していく。大阪府立大学の学生39名に協力してもらいアンケートを行った。アンケートの内容は「東京ディズニーランドに行ったことがあるか」また「行ったことがある人はもう一度行きたいと思うか」を聞き、もう一度行きたいと答えた人にも、もう行きたくないと答えた人にもその理由を自由に記述してもらった。アンケート結果は以下の表に示すような結果となった。

 

もう一度行きたいと答えた人たちの理由は、雰囲気(建物の造り)がいい・現実逃避できる・夢の国に来たみたいだったから・非日常を味わえる・アトラクションに乗れなくても(絶叫系がダメな人も)楽しめる・ミッキーマウスやドナルドダックなどのキャラクターに会える・友達との楽しい思い出ができる・アトラクションがいいなどであった。逆に行きたくないと答えた人たちの理由は、人が多い・遊園地が好きじゃない・お金がかかる・アトラクションが子供向き・恋人がいれば行きたいが・・・というものであった。

 このアンケート結果から考えられることは、第1に東京ディズニーランドのリピーター率の高さは女性によって支えられているのではないかと言うことである。アンケートの結果、東京ディズニーランドに行ったことがある女性で、もう一度行きたいと回答した人は12人中12人で100%であった。男性が約71%であるのと比べればかなりの差があると言えるのではないだろうか。「恋人がいれば行きたい」という男性の意見がこの差に結びついたのではないかと思う。確かに、東京ディズニーランドに男性だけのグループで来園しているのはあまり見かけない。逆に女性だけのグループというのはよく見かける。では、なぜ男同士では東京ディズニーランドに行かないのか。ある男性は「男同士で行くと周りの目が気になる」と言った。そう、この男女差にはジェンダーの性別役割が関係しているのではないだろうか。女性同士で行くことに対し何の抵抗も感じないのは、テーマパークに女性同士のグループで行き、はしゃぐ事は一般的に女性らしい行動だからではないだろうか。逆に、男性同士でテーマパークに行き、はしゃぐというのは一般的な男性らしい行動とは離れているから周りが違和感を抱くのではないだろうか。周りよりも、本人自身が一番違和感を感じているかもしれない。そこで、恥ずかしいという感情が生まれる。だから、男性同士での来園者は少ないのではないのだろうか。

 第2に、このアンケートでもう一度行きたいと答えた人に多く見られた理由は「夢の国だから」というものであった。東京ディズニーランドのキャッチコピーでもある「夢と魔法の国」が人々を惹きつけているようである。この意見は男女問わず多かった意見で、人々は日常を飛び出し現実とはまったく違うどこか別の世界へ行きたいという願望を持っているのではないだろうか。

また、女性だけに多かったのは、キャラクターに会えるからという意見であった。女性はミッキーマウスやミニーマウスに会いたいと思う。それが着ぐるみだと分かっていても会いたいと思う。ミッキーマウスやミニーマウスの動きはオーバーアクションである。冷静に考えればオーバーアクション過ぎないかと思うくらいである。しかし、そんなオーバーアクションが子供だけでなく大人までも喜ばす。なぜ、オーバーアクションが大人までも喜ばすのか。それは、大人が持つ子供心に関係があるのではないだろうか。大人になりたくない、いつまでも子供でいたい。大人は心のどこかで「子供の頃に戻りたい、子供の頃のように遊びたい」という願望を持っているのではないだろうか。ミッキーマウスやミニーマウスは子供に対してだけではなく、大人に対しても子供に接するのと同じようにオーバーアクションで接する。子供と大人の対応を区別せず一緒にすることで、大人に子供心を出してもいいという雰囲気を作り出している。童心に戻れるというのは大人にとって心が休まる瞬間なのではないだろうか。だから、ミッキーマウスやミニーマウスに会いたいと思うのではないだろうか。

3に、もう行きたくないと答えた人の意見を見ていくと、そもそも遊園地や人ごみが嫌いだという人が多かった。人が集まるところが苦手だという男の人の話は良く聞く。また、先に述べたように男性は性別役割というジェンダーのしばりからくる恥ずかしいという気持ちから行きたくないと思うのではないかと思った。

 最後に、アンケートに協力してくださった大阪府立大学の学生のみなさんこの場を借りてお礼申し上げます。

 

2.東京ディズニーランドがかけた魔法

 

この章では、アンケート結果から多く見られた「夢の国」というキーワードに注目する。東京ディズニーランドがどのように「夢の国」を作り上げているのか見ていきたいと思う。

 夢の国というのはどういう場所なのだろうか。夢の国とはおそらく私たちの生きている世界とは全く違った世界なのだろう。人それぞれ夢の国に対するイメージはあると思うが、ここでは日常から開放された非日常的空間とする。

 まず、夢の国を作るのに大切なことは外の世界(現実)を完全に遮断することである。東京ディズニーランドでは、バームと呼ばれる土盛と植栽によってパークを囲むことにより外界を完全にシャットアウトしている。また、私たちが実際に乗り物に乗ったりするオンステージと荷物などが置かれているバックステージの区別も徹底されていて、荷物搬入用のトラックなど現実に引き戻してしまうものは必ずバックステージを通り私たちの目に入らないようになっている。

 次に、非日常的空間を作り出すため東京ディズニーランドには「現在」がない。東京ディズニーランドは4つの「時制」と「空間」から成り立っている。アドベンチャーランドの時制は定かではないが、空間は熱帯地方。ウエスタンランドは1870年ごろの米国西部。ファンタジーランドはおとぎの国であるため時制も空間も超越している。トゥモローランドは時制が未来で空間は宇宙。つまり、私たちが生きている現在の日本という時間的・空間的設定は1つもないのである。そして、この非日常的空間に違和感を与えないための工夫もされている。違和感を与えず受け入れてもらうには現実との距離感をおく中間地帯が必要となる。東京ディズニーランドの全敷地面積のうち、遊園地部分は56%しかない。残りの44%の面積がゆとりとなり住宅地から突然非日常的空間に入ることがないようにされている。実際に行ってみれば分かることであるが、最寄駅から遊園地部分に達するまでには結構な距離がある。この距離が非日常的空間を受け入れるための工夫である。

 他にも、「ここはアメリカだ」と錯覚させる工夫が随所にされている。キャストの大きなジェスチャーや豊かな表情。アメリカの西部劇に登場するような作りの店が並んでおり、その看板の文字が全て横文字。唯一の日本食レストラン「北斎」も「HOKUSAI」と書かれている。後、パーク内に流れている音楽がアメリカのものである。このように、日本人が抱くアメリカのイメージを上手く再現している。また、強化遠近法という技法を使っている。強化遠近法とは近くの物を大きく、遠くの物を小さくすることにより実際よりも距離感があるように見せる技法である。道幅をだんだん狭くしていくのもこの技法のひとつである。東京ディズニーランドで強化遠近法が使われているのは、シンデレラ城である。東京ディズニーランドに入るとまず、ワールドバザールというお土産物屋さんの並んだアーケードがある。そのワールドバザールを抜けたところでシンデレラ城を見ると、すごく遠く感じる。しかし、逆にシンデレラ城からワールドバザールを見ると近く感じる。これは、最初は広いと思うことにより気分を高揚させる効果と、逆に帰りには疲れているので近いと感じさせ気持ちよく帰ってもらうという効果がある。さらに、東京ディズニーランドのパーク内にはゴミが落ちていない。ゴミは日常に引き戻す要素である。ゴミが私たちの目に付かないよう、ゴミ箱にも工夫がされている。公園などにある金網で中身が見えるゴミ箱ではなく、中身を覆うような設計になっていてゴミが見えないようになっている。そしてもう1つ日常に引き戻す要素がある。お弁当である。日本人はお弁当を持ってお出かけするのが好きである。しかし、ビニールシートを広げお弁当を食べてる光景は日常を思い出させてしまう。よって、東京ディズニーランドは弁当類の持込を一切禁止している。この弁当持込禁止にはゴミが増えるという理由もあるのではないかと思った。

 ここまでは、東京ディズニーランドの建物などについて見てきたが今度は東京ディズニーランドで働く従業員について見ていきたいと思う。建物や乗り物に工夫がされていても従業員の教育がしっかりなされていないと私たちは気持ちよく遊べないと思う。東京ディズニーランドに行った事がある人なら分かると思うが、東京ディズニーランドで働く従業員はとても丁寧で親切である。他の遊園地などと比べても飛び抜けてサービスが良いと言えるのではないだろうか。では、そんな従業員はどんな教育・研修を受けているのだろうか。

 まず、東京ディズニーランドで働く従業員は全員キャストと呼ばれる。キャストと呼ばれる訳は、それぞれが与えられた役割を演じる出演者という考えからきている。清掃員や駐車場で車を誘導する人のように、普通は裏方と思われがちな役割の人も同じである。また、東京ディズニーランドでは私たちお客のことをゲストと呼ぶ。東京ディズニーランドでは見るもの全てがショーなのである。そして、そのショーを見るのではなく参加していただく「主役」であるというのがウォールトディズニーの考えなのである。そんな考えを基にゲストと呼ぶのである。

 次に、東京ディズニーランドのサービスの基本理念を見ていく。東京ディズニーランドのサービスの基本理念は「コミュニケーションから楽しみが始まる」というものである。そこで、キャストはゲストに「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と声をかける。他にもコミュニケーションを重視するため、ジュースの自動販売機は1台もなく全てキャストによって売られている。唯一パーク内にある銀行のATMは機械の冷たさを無くすため、木で覆ってある。このように、キャストはゲストとコミュニケーションをとる事を教えられているようである。コミュニケーションを教えられると同時に、キャストは研修中に東京ディズニーランドの運営理念である「SCSE」という4つのキーワードを叩き込まれる。「SCSE」とは、safety(安全性)、courtesy(礼儀正しさ)、show、efficiency(効率性)の頭文字をとったものである。この4つは並列ではなく、重要度の順に並んでいる。この、基本理念と運営理念を土台として、職種(全22種)ごとに詳細で具体的なマニュアルが作られている。その数はおよそ400種ある。マニュアルには業務内容や行動基準がいくつもの項目にわたって書かれている。例えば、東京ディズニーランドのキャストとして守らなければならないことのひとつに服装がある。勤務中の制服はもちろんのこと、通勤時に着る服にも規則があるそうだ。規則に従った服装のことをディズニールックと呼び、それ以外の服装では働けないと決められている。このような、決まりごとが細かく書かれているのであろう。このようなマニュアルをキャストが守り行動しているからゲストである私たちが気持ちよく楽しめるのではないだろうか。

 

3.魔法は本当にかかっているのか

 

 この章では、実際に東京ディズニーランドに行き第2章で挙げた工夫がされているか、またその他新たに発見した工夫などを書いていくことにする。

 まず、東京ディズニーランドが本当に外界をシャットアウトしているのかという点。これはかなり徹底されているのだろう。東京ディズニーランドの中から外の風景は一切見えない。パーク内と外界の境界となる場所には建物が建っていたり、木が植えられていたりした。東京ディズニーランドには端がないと感じた。建物の中は広々としているのだろうなと思わせてくれるし、木が植えられている部分は壁で区切られているのとは違い圧迫感が無く奥行きを感じさせた。細部にまで手を抜いていない造りが「夢の国」を演出しているのであろう。また、逆に東京ディズニーランドの入り口を入るまで中の様子はほとんど分からない。東京ディズニーランドのシンボルであるシンデレラ城はかなりの高さがあるが、そのシンデレラ城でさえも少しも見えなかった。入り口を入るまでに見えるのはワールドバザールの入り口だけであった。中には一体何があるのだろう、どんな世界が待っているのだろうと気持ちを高揚させるためだろうか。実に上手く作られているなと感じた。

 第2に、4つの時制と空間について。これはキャストの制服、流れている音楽、建物の作りの3要素でそれぞれ独自の空間を表現していた。アドベンチャーランドの空間は熱帯地方。そこでアドベンチャーランドに流れている音楽には鳥の鳴き声が入っていて、至るところに熱帯に生えてそうな木が生えていた。また、ウエスタンランドは1870年頃の米国西部なので、音楽はカントリー調の曲で全体的に木で作られている建物が多い。ファンタジーランドはおとぎの国ということで、全体的にパステルカラーなど明るい色が使われていて小さな子供が楽しめるアトラクションが多い。最後に、トゥモローランドであるが空間が宇宙なのでキャストの制服が宇宙服見たいな服になっていてかかっている音楽も宇宙空間にいるような気分にさせる音楽であった。4つの空間は全て違う音楽が流れているし、空間が違うので建物の雰囲気や造りが異なっている。急に音楽が変わったり、隣同士に全く違う造りの建物が並んでいたら違和感を感じるだろう。その違和感を軽減するため東京ディズニーランドは1つの空間から次の空間に移る時に少しの距離をとっている。どの空間とも言えない中間地点を歩いているうちに次の音楽が聞こえてきて新しい風景が目の前に現れるのである。また、1つの空間から他の空間は見えないようにも工夫されている。このような工夫により全く異なった4つの空間が共存しているのである。

 第3に、アメリカと錯覚させる工夫について。ワールドバザールの建物に書かれている文字や、看板の文字。これら全てが横文字であった。流れている音楽も英語で歌われていた。店の外観もレンガ造りでアメリカの映画に出てきそうな建物だった。しかし、それだけでなぜアメリカだと思うのか。看板が横文字というのは現代の日本ではそれほど珍しいことではない。洋楽もそんなに珍しいものではない。洋風な建物だって最近の日本にはたくさんある。これは私の考えであるが、この3つが個別に存在しても特に何も感じないのではないだろうか。3つがそろって存在したときに日本人の考えるアメリカ像にぴったりくるのではないだろうか。この時日本人が感じているアメリカというのは実際のアメリカではなく映画やテレビで見たアメリカなのだと思われる。日本人のアメリカ像をうまく再現していると思った。

 第4に、パーク内がきれいな理由について。パーク内にゴミが落ちていない理由の一つに、ゴミ箱の多さが挙げられる。私が行ったときに、ある地点で360度見渡して目に入るゴミ箱の数を数えてみたところ10個ものゴミ箱があった。他の地点でも必ず3〜4個は目に入った。東京ディズニーランドはワゴンで袋に入ったお菓子をよく売っている。そのお菓子は歩きながら食べられるようになっている。食べ終わった後、お菓子の入っていた袋は邪魔になる。その袋がいっぱい落ちていても不思議ではないといえば不思議ではない。しかし、自分がゴミを捨てたいと思ったときにすぐ近くにゴミ箱があったらどうするだろう。わざわざ道には捨てないだろう。歩きながら食べられる分、どこでゴミが出るか分からない。だから、パーク内のいたるところにゴミ箱が設置されていてゲストがすぐに捨てられるようにしてくれているのである。また、ゴミが落ちていない理由に清掃係の人の多さも挙げられる。パーク内を歩いていると、本当によく箒とちりとりを持った人とすれ違った。清掃係の人は道に落ちているゴミを拾いながら、ゴミ箱をこまめにチェックしていた。ゴミ箱の中がいっぱいになっていないかの確認であったと思う。後で、ゴミ箱の中を覗いて見たらほとんどゴミは入っていない状態であった。ゴミ箱の形状は各空間に合ったデザインになっていた(写真f,g,h参照)他にも灰皿や消火器、スピーカもその場所に合ったデザインとなっていて風景に溶け込んでいた(写真a,d,c参照)。

 最後に、その他の点について。強化遠近法が使われているかどうかということについては、私の感覚では若干ではあるがワールドバザールからシンデレラ城を見るほうが遠く感じられた(写真b,i参照)。そして、行ってみて気づいた事であるがシンデレラ城までの道はなだらかな上り坂になっていた。視覚だけではなく、疲労感からも距離を遠く感じさせる工夫がなされていると思った。なだらかな上り坂は他の場所にも使われていた。それはモノレールの駅を降り、荷物チェックを受けてからチケットブースまでの道である。私が行った日がたまたま雨だったからこそ気づいた事であるが坂の下には雨が流れていくための大きな排水溝があり、雨はそこに向かって流れていた。雨の日には雨が溜まらないように、そして晴れている日には上り坂で感覚的に広いと感じさせ帰りには楽に帰ってもらうためであろう。他には、東京ディズニーランドにはワールドバザール内に1つ時計があるだけで、他の場所には時計が1つもないということに気づいた。初めは時計がないと時間が分からないし不便なのではないだろうかと思った。しかし、時計が至るところにあったらアトラクションを待っている間に「もうこんなに待ってるのに」とか「まだこれだけしか時間経ってないの」とイライラするかもしれない。また、「もうこんな時間、後ちょっとしか遊べない」と思っていてはあまり楽しめない。ゲストに時間を気にせず遊んでもらうための工夫ではないだろうかと思った。そして最後に、私が一番非日常だと感じたのはミッキーやミニーの耳をつけていることである。雨の日には耳をつけている人はあまりいなかったのだが、その代わりにミッキーの絵の描いてあるポンチョ(写真e参照)を着ている人がたくさんいた。子供が耳をつけたりポンチョを着たりしているのは別に非日常ではない。しかし、東京ディズニーランド内では大人がみんな耳をつけたりポンチョをきたりしている。この光景は東京ディズニーランド内では普通かもしれないが、一歩外に出ればやはり普通ではない。そんな事を平気で出来てしまうというのは東京ディズニーランドが非日常的空間だからではないだろうか。

 次に、「コミュニケーションから楽しみが始まる」ということがどのように行われているのか検証するためにキャストの人に色々と話しかけてきた。そして、キャストの答えはマニュアルにより決まっている事なのか、個人の判断なのかを考えていきたい。ここからは、私たちが実際にキャストと交わしたコミュニケーションのやり取りを書いていく。

 私たちが東京ディズニーランドに行った日はあいにくの雨。そこで、「パレードが行なわれるのか」という質問を色んな人にしてみた。お土産を売っているショップの店員さんや清掃係の人、アトラクションの入り口でゲストを誘導している人など時間を変え同じ質問をした。開園してすぐくらいではどのキャストも「今のところ中止の決定が出ていませんので分からないです。楽しみに待っていて下さい」と答えていた。お昼のパレード近くになると「お昼のパレードは中止になってしまったんですが、夜はまだどうなるか分からないのですね」という答えになった。夜のパレードに近くなると「残念ですが、今日のパレードは全て中止の決定がされてしまいました。でも、雨の日用のパレード、レイニーデーファンがありますのでぜひご覧下さい」という答えに変わった。この質問に対する答えは基本的には全員が同じであった。これは、個人の判断というよりもマニュアルにより決められている答えのような気がした。他にも、マニュアルだなと思うキャストの言動があった。ミッキーマウスに手紙を書けば返事が届くという情報を聞いた私は、手紙を書き実際にミッキーの家に行き直接渡す事にした。その際、私がミッキーマウスに手紙を渡すとミッキーの代わりに隣にいたキャストのお姉さんが「お姉さんが書いてくれたんですか。ミッキーよかったね。これでまた頑張れるね。」と言ってくれた。横でミッキーは喜びを動きで表現してくれていた。ミッキーの動きもマニュアルで決まっているだろうと思ったし、キャストの言葉もほぼ決まっているのではないかと思った。ちなみに一週間後ポストカードの返事が届いた。

 次に、私たちは「この辺においしくて安いお店はありますか」と聞いてみた。するとキャストに「中華・洋食どちらがよろしいですか」と言われたので「洋食がいいです」と答えた。キャストはさらに「ブッフェ・カウンター、テーブルどのスタイルがよろしいですか」と聞いてきた。私たちが「テーブルで」と答えるとキャストはワールドバザール内にあるお店を教えてくれた。そして「お値段の事もありますし、一度行かれて決めてください。いってらっしゃい」と付け加えて言った。この日唯一の和食レストランは閉まっていたことも把握し的確な対応をしてくれた。これは、マニュアルではなく個人の判断による答えだと思われる。また、「シンデレラ城ミステリーツアーはなぜ終わってしまったのか」という質問もした。この質問は清掃係の人が2人でいる時にした。私の個人的な見た目では1人は結構ベテランの人で、もう1人の人はまだ新人のような感じであった。この2人に質問をした時、ベテランと思われる方のキャストの顔が一瞬変わった。私には「何でそんな事聞くの、だいたい分かるでしょ」とでも言いたそうな顔に見えた。それにも負けず「どうしてですか」と聞くとベテランと思われる方のキャストは「どうして」と新人と思われるキャストの方に質問を振った。新人と思われるキャストは一瞬止まったが「魔王が退治されたからですよ」と言い、ベテランと思われるキャストの方を見た。ベテランと思われる方のキャストは「そう、そうなんです」と話を合わせた。この質問に関しては完全に新人と思われるキャストの個人的な判断だと思う。夢の国のイメージを壊さない機転の効いた答えだと思った。

 私たちが話しかけると必ず「こんにちは(日が沈むとこんばんは)」と満面の笑みで言われる。そして、どんな質問に対しても身振り手振りをつけ丁寧に答えてくれる。そして、最後には必ず「いってらっしゃい」と送り出してくれる。また、私たちから話しかけなくても、キャストから話しかけてくれることもあった。

私たちが夜お土産物を買った時レジのキャストが「今日は楽しかったですか、この商品は今日から販売の新商品なんですよ」と話しかけてくれた。「今日は何が一番の目的だったんですか」と聞かれたので「ステッチのパレードが見たかったんですけど雨で中止になってしまって」と答えた。すると、「そうですか、まだしばらくステッチのパレードはやっていますけどその期間中に来ることは可能ですか」と言われたので「ぜひ来たいですね」と言うと「ホームページにパレードの振り付けも載っていますのでぜひ覚えていらしてください」と言ってくれた。これはそのキャストのゲストを楽しませたいという気持ちから来た個人の判断であると思う。さらに帰り際、雨でパレード見れなくて残念だなと思っていると「レイニーデーファンはなかなか見れないパレードでラッキーでしたね」と声をかけられた。帰る前にマイナスイメージをプラスに変えてくれた。これもキャストの個人的な判断に基づく行動だと思った。

これらのキャストとのコミュニケーションから考えられることは、キャストは常にゲストの気持ちを考えて行動しているということだ。私たちからの質問に、誠意を持って答えてくれていると感じたからである。マニュアル通りの答えだけではなく、時には私たちの気持ちを察しいい方に気持ちが向くような事を答えてくれる。また、夜になるとキャストの方から積極的に声がかけられるようになる。夜に積極的に声をかけるというのはマニュアルで決まっていることかも知れない。しかし、話しかける内容はそれぞれ個人の判断なのではないかと思った。ゲストが最高の気分で帰れるようにしてくれていると思った。そんなキャストは、いつも笑顔でテンションも少し高めでゲストに接している。マニュアルで決まっているとはいえキャストも人間である以上、落ち込むこともあれば、気分が乗らない日もあるだろう。東京ディズニーランドのキャストは感情労働をしているのではないだろうか。

感情労働とは、「公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行なう感情の管理で、感情労働は賃金と引き換えに売られ、したがって<交換価値>を有する。」というものである。客室乗務員や債務者の恐怖を煽る集金人、広くは接客業全般が感情労働を行なっている。感情労働を行なっている人達は会社の方針で感情を規制(管理)されている。本当は感情と表情が一致していることが好ましい。しかし、常に一致させ続けるというのは難しい。感情と表情が一致しない状態を長く続けるとかなりのストレスが生じる。感情と表情にズレが生じた場合どちらか一方を変えなければならなくなる。そこで感情労働者は感情の方を変える選択をする。自分で選択するというよりも会社に選択させられているのであろう。会社の規則でそう決めていれば、ロボット式になる(脱個人化)かもしれないがいいサービスを提供できるのである。個人の感情で仕事をしないようコントロールされているのであろう。東京ディズニーランドのキャストはまさしく感情労働者であると思う。笑顔を作り、大きな身振り手振りでゲストに接する。これがマニュアルの一番重要な部分なのではないだろうか。研修では徹底的に笑顔で接する練習をさせられているのではないだろうか。またミッキーマウスやミニーマウスはかぶりものを被っていて、表情が分からないという利点があるので感情労働がしやすいのではないかと思われる。対応のいい客室乗務員がいる飛行機に乗れば空の旅が楽しくなるのと同じで、対応のいいキャストがいるから東京ディズニーランドは楽しいのではないだろうか。もし、東京ディズニーランドとアトラクションや造りが全く同じ遊園地があったとしても、キャストが無愛想だったら楽しいと感じることができないだろう。それくらいキャストの存在は夢の国作りに欠かせない存在だと思った。

 

4.最後に

 

東京ディズニーランドはなぜリピーター率が高いのか。現実を忘れさせてくれる空間作りや、ミッキーマウスやミニーマウスなどのキャラクターの動きのかわいさ、徹底されたキャストの教育などが挙げられるだろう。その中でも私は徹底されたキャストの教育が一番の理由ではないかと思った。今回私は東京ディズニーランドに行ってキャストの言動に注目したから色々と印象に残っているが、普段東京ディズニーランドに行ってキャストの言動はほとんど印象に残らないのではないだろうか。でも、よく思い出して見てほしい。パーク内にゴミが一つも落ちていないのは。安全に遊べるのは。道を教えてくれたのは。写真を撮ってくれたのは。どれもこれもキャストがしてくれた事である。ミッキーマウスやミニーマウスのように目立ちはしないが影で東京ディズニーランドを支えている。そんなキャストがいるから東京ディズニーランドは夢の国を維持できているのではないだろうか。また、東京ディズニーランドは季節に応じて色々変えることによりゲストを飽きさせないようにしている。期間限定のパレードやショー、それに期間限定のグッズ。常に一緒では、一度来たゲストにまた来たいと思ってもらえない。リピーター率が高い理由には、このように常に新しいものを作り出す努力も挙げられるであろう。さらに、東京ディズニーランドには気分を高揚させる雰囲気がある。すれ違う人みんなが幸せそうな顔をしている印象が強い。私は、東京ディズニーランドに行くと日ごろの嫌な事や悩み事がすごく軽くなる。東京ディズニーランドにいる時だけではなく、帰ってからも何故かすごく幸せな気持ちで日々を過ごせる。これが東京ディズニーランドの魔法なのではないかと思う。魔法もしばらくすると効き目が薄れていく。そこで、また幸せな気持ちになりたくて東京ディズニーランドに行きたいと思うのではないだろうか。

私は、これらの理由により東京ディズニーランドはリピーター率が高いと考える。

 

 

参考文献

 

三浦あかね(1994)『笑いのとまらない東京ディズニーランド商法』エール出版社

粟野房穂(2001)『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社

ディズニー・インスティチュート著 月沢李歌子訳(2005)『ディズニーが教えるお客様を感動させる最高の方法』日本経済新聞社

ビル・カポダグリ リン・ジャンクション著 弓場隆訳(2002)『ディズニー方式が会社を変える』PHP研究所

A.R.ホックシールド著 石川准・室伏亜希訳(2000)『管理される心―感情が商品になるときー』世界思想社

東京ディズニーリゾートCASTING CENTER   http://www.castingline.net/

 

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