生命学ホームページ 
ホーム > 対米テロ > このページ

作成:森岡正博 
掲示板プロフィール著書エッセイ・論文

English Pages | kinokopress.com

米国の決定がすべて正しいわけではない、しかし、それが憎しみの根源なのではない

James Klurfeld "Not All U.S. Decisions Are Right, But They're Not at Hatred's Root"(Newsday Oct.11)
翻訳:岩田憲明  

 一部ではあるが遠慮のないコメンテーターたちは米国自身の傲慢で大きく誤った行動がとにかく9月11日に起きた攻撃の原因であるようなことを言っているが、それを聞いていて私はほとんど黙っているわけには行かなった。

 これらの批判は、米国は専制的な腐敗した政権を支援し、貧困や抑圧のような憎しみの根本的原因に無知であったがために、それを悪化させ、イスラエルに肩入れしすぎ、アラブの世論を危険なまでにたきつけることによって深刻な過ちを犯した、と論じている。

 中東における米国の政策は、当然のことながら、完全であったわけではない。ワシントンにも幾分かの誤りはあった。例えば、ソ連の敗北後アフガニスタンから完全に手を引いたために、過激なタリバンに占められることとなった真空状態を作ってしまった。恐らくこのような事態は回避されえたであろう。しかし、ワシントンの行動が憎しみの根本原因の一部となったするのは馬鹿げている。

 世界のこの地域にある多くの国々は腐敗し、貧困に苦しめられ、専制的であるが、そのことが、それらの国自身の悲しむべき国内的失敗を生み出したのベースにあるのであって、それは西洋や米国のような何か外部の力によるものではない。実際のところは、オスマン帝国の崩壊の方が、よく問題の根本原因としてあげられる西洋の植民地主義よりも、その地域においてより重要な要因なのである。

 また、Fouad Ajami のようなイスラム世界の学者が指摘したように、「アメリカが、特権と(それに対する)激怒、及び世俗的な権力にあぐらをかく者とその下にあってそれに対抗する最も純粋な古くからの信仰心の間に沸き起こる、イスラムそのものをめぐる戦争の十字砲火を浴びることはその宿命」なのであった。

 少しでも事実を調べれば分かるように、イスラエルという例外を除いて、中東には民主主義が一つも現れていない。もしあるにしても、この地域の国々は20年もしくは30年前よりも自由を失い、繁栄から遠ざかっている。このことは、エジプトに見られるように、これらの国々に対する米国の多大な援助計画や、サウジのような、石油の埋蔵による夥しい富の流入にもかかわらず、真実である。

 多くの国々以上に、合衆国は(憎しみの)根本的原因に対処しようとして来たのが事実である。(が、)それは容易なことではない。

 米国のリーダーがそれが国益にかなうと判断し、ワシントンが腐敗した専制的な国々と時として何らかの提携を結ぶことが悪いことなのであろうか、どうなのか。すべての国々は自国の利益を守るために行動する。それは数世紀にわたって真実であったし、予想される将来にわたっても真実であり続けるであろう。

 エジプトの大統領、Anwar Sadat がソ連を自国から追い出した時、彼は合衆国にその代わりをつとめるように依頼した。合衆国は中東の外に止まるべきだったのだろうか。サウジやその国を支配する家を支援すべきではなかったのか。何か他にどのような道があり、その道を選んだならばどのような結果となるのか。アフガニスタンにおけるソ連への敵対勢力に援助をしない方が米国の利益になったのだろうか。

 現に今のことになるが、Osama bin Laden と戦うために、軍事独裁政権であるパキスタン政府と手を組むべきでないというのか。また、タリバンとは敵対しているものの完全にはアフガニスタンの諸部族を代表しているとはいえない反抗勢力である北部同盟と力をあわせるべきではないと言うのか。

 世界は厄介なところである。決定がすべて誤っているわけでもすべて正しいわけでもない。必要なのはバランスを取って自分の利益にかなうことをすることである。

 この地域で唯一民主主義の国であるイスラエルに米国が肩入れしてきたのが悪いことなのであろうか。記録が示すところによれば、25年以上もイスラエルとパレスチナとの争いに解決を見出すために熱心に動いてきたのは米国であり、2000年の夏には、その成功のほとんど寸前まで来ていた。アメリカはそのために、パレスチナやアラブの国々と同様にイスラエルにも圧力をかけていたのだ。

 もしいくつかのアラブの国々にとってイスラエルの消滅がその最終目的であるならば、ワシントンは彼らにとって敵であろう。しかし、それが2つの国家による解決であったなら、ワシントンは解決の一部を担っているのであり、問題とはならない。パレスチナのリーダーであるYasser Arafat は bin Laden に対抗するワシントンの側にいることは、少なくとも彼が国家を得るために何が自分にとって有利であるかを理解していることを示している。

 ちなみに、アラファトは腐敗した、専制的なリーダーである。

 米国を批判する者たちはいかに近東の者たちをも含めた他の者たちが我々を見ているかを理解すべきだという。そこでは多くの人々が我々を大きく、力強く、そして傲慢だと見ている。そのような見方を十分に意識するのは重要であろう。しかし、より重要なのは事実を理解し、全体的な状況を見ることである。そして、その状況は明白である。合衆国は bin Laden とその一派によってなされた悪を冷酷にも生み出した事態を作り出したわけではない。 (終わり)

 

原文の一部
"These critics argue that the United States has seriously erred by supporting autocratic, corrupt regimes; ignored or exacerbated the root causes of hatred, such as poverty and oppression; and tilted so far toward Israel that it has dangerously inflamed Arab opinion. ""That so many nations in that part of the world are corrupt, poverty-stricken and autocratic is, at base, a sad result of their own internal failings, not something the outside powers, the West or the United States, have done to them."
"The United States did not create the conditions that inexorably lead to the evil done by bin Laden and his ilk."
http://www.newsday.com/news/opinion/ny-vpklu112408047oct11.column?coll=ny%2Dviewpoints%2Dheadlines