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「ヒト組織の移植等への利用のあり方について(案)」に対する意見
ぬで島次郎 *「ぬで」は「木へん+勝」
NUDESHIMA Jiro, March 2000
 

1 報告案全体に対する意見

 本報告案は、「皮膚、骨、靱帯、心臓弁、血管、鼓膜、耳小骨等のヒト組織」を、
死者(臓器移植法でいう脳死者を含む)からは家族の同意だけで、生きている人から
も未成年者や医師が同意能力無しと判断した人の場合はやはり家族などの代諾者の同
意だけで、医療及び研究目的での摘出できるとしている。しかもそうした実施規定を
、移植法(の改正)によるのではなく、発給主体不明の「指針」によって定めるとし
ている。
 これは、本人同意を主原則とした臓器移植法の立法(を通じて示された社会の合意
)の精神を、一行政部局が踏みにじろうとする暴挙であると言わざるをえず、とうて
い認めることはできない。

 本報告案では、臓器移植法とのかねあいについて一切言及がない(末尾の用語の定
義において、死体とは臓器移植法でいう脳死者を含む、という注釈があるだけである
)。同じ人体の一部でありながら、なぜ臓器以外のヒト組織は移植法の規制に服さな
くていいのか、その倫理的、法的根拠が述べられていない。
 このまま本報告案が承認されれば、脳死者からの臓器摘出/移植は移植法の規制を
受けるのに対して臓器以外の組織は法的拘束力のない行政指針による規定ででき、し
かも同じ生きている人からの摘出/移植でも、組織は行政指針を設けるのに臓器は一
切の公的規制なしに個々の医療施設の判断で行える現状を追認することになる。さら
に同じヒト組織であっても、角膜は移植法の規制を受け、皮膚や骨などは本報告案で
いう行政指針、臍帯血は別の業務指針で規制されるのに対し、骨髄や肝臓や膵臓の細
胞などは公的規制なしに行えることになる。同じ人体の一部でありながら、規制の有
無や厳しさに大きな違いができてしまうのである。その公共政策上の矛盾、整合性の
なさについても、本報告案では一切配慮されていない。

 以上のような欠陥をもつ本報告案は、根本的な修正を要すると考える。
 人体とその一部は、人の尊厳の源である人格及び人権の座であり、国はそれらの保
護を通じて人の尊厳と人権を充足、促進する義務があると考えられる。広範に広がる
人体の利用に対しては、臓器であれ組織であれ、医療目的であれ研究目的であれ、一
貫した共通の倫理原則に基づき、統一した法令による規制を構想するべきである。他
の主要先進諸国の移植法は全てそうした構成を備えている。
 現行の臓器移植法は、主要臓器しか対象にせず、脳死者からの提供が主で生きてい
る提供者の保護の規定がなく、さらに医療目的での移植しか定めず研究利用の規制に
ついての規定がない。本年中に予定されている施行三年後の見直しは、これらの欠陥
を正すいい機会であり、本報告案の対象は全てその範囲の問題である。臓器だけでな
く組織についても、本人同意、無償、匿名、加工しない組織そのものの売買の禁止な
どの倫理原則を定め、提供/保存/移植施設を国の登録制または許可制にして安全衛
生検査を義務付けるなどの規定を、移植法に盛り込むべきである。
 これらの本報告案で検討された事項は、国会において検討されるべき課題であり、
あくまで移植法見直しの検討に資する参考資料と位置付けるべきである。本報告案に
基づいて行政庁がヒト組織の利用を認める決定をくだすことは、移植法が存在する現
状においては越権行為であり、認めることはできない。
 

2 本報告案の内容に対する個別修正意見
 1で述べた意見を踏まえ、以下に個別の修正意見を述べる。

A. 「1はじめに」の第4、第5段落を、以下の内容を盛り込んで書き改める;
 *人体とその一部は、人の尊厳の源である人格及び人権の座であり、国はそれらの
保護を通じて人の尊厳と人権を充足、促進する義務があること。広範に広がる人体の
利用に対しては、臓器であれ組織であれ、医療目的であれ研究目的であれ、一貫した
共通の倫理原則に基づき、統一した法令による規制を構想するべきこと。
 *ヒト組織及びヒト細胞の利用の規制は、臓器移植法を改正しその規制対象範囲を
拡大することによって行うべきこと。
 *本報告案は、上記方向での臓器移植法の見直しのための参考資料として、厚生大
臣を通じて国会に報告されるものとすること。

B. ヒト組織採取原則を以下のように改める(2(1)、3(1)4)、3(2)1)(1)及び2));
 *すべての場合について本人同意を原則とする。
 *死後の提供は、同意能力の十分な成年者を対象とし、現行のドナーカードに所定
の記入欄(脳死後か心臓死後か、提供する組織の種類も列挙)を設け、同意の意思表
示を組織についても明確に求める。心停止前の保存液注入まで同意内容に入れている
別添1の同意書式例は削除する。
 *生きている人からの提供は、原則として同意能力の十分ある成年者を対象とする
。別添2の同意書式例は本人同意のみに改める。
 *生きている提供者として未成年者ないし同意能力の十分でない成年者を対象にす
る場合は、想定されるケースを予め例示し、医療目的に限り、その医学的必要性と倫
理的妥当性について、事前に採取施設の倫理委員会から承認を受けたものに限り、例
外的に認めうることとする。採取施設はこれらの例外の実施については個人のプライ
バシーを除き、事前に情報公開する。

C. 3(1)インフォームドコンセントの、1)説明内容に、以下の点を追加する;
 *5(2)でいうドナースクリーニング検査の項目、検査方法及び結果の伝達につ
いて。    これらの検査結果は提供者側には一切知らせないのであれば、そのこ
とを明確に説明して同意を取るべき。
 *提供組織から生じる知的財産権の可能性とその帰属について。
提供された組織から生じる知的財産権は提供者には帰属しないことを説明して予め同
意を取るべきである。なお、無償提供されることにかんがみ、ヒト組織の産業応用に
おいて生じる利益の社会への還元のあり方について検討が必要なことを、基本原則に
明記する。

 同意取得のための必要説明事項については、「遺伝子解析による疾病対策、創薬等
に関する研究における生命倫理」検討委員会が公表した指針案とそれに添付された説
明同意書式を参考に、それとの整合性を取るべく再検討すべきである。

D. 情報公開(2(7))については、採取機関、移植機関、組織バンクすべてに厚生省
への報告義務を負わせ、厚生省の責任において社会に公開することとする。

以上
 
 

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  Jiro NUDESHIMA
Mitsubishi Kasei Institute of Life Sciences,
  11, Minami-Ooya ,  Machida-shi, Tokyo 194, Japan
  Fax:  (81) 427-24-6301
  email : jiron@libra.ls.m-kagaku.co.jp
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厚生省臓器移植対策室直通電話は03-3595-2256、ファックスは、03-3593-6223
 

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