生命学ホームページ掲示板プロフィール著書エッセイ・論文リンクkinokopress.comEnglish |

厚生科学審議会先端医療技術部会 御中

「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書(案)」に
対し、以下のような深刻な危惧を抱きますので、意見を申し上げます。

1)この報告書案を策定した専門委員会は、非公開のもとで審議を行い、議事録も2
ヶ月以上遅れでなければ公開されておらず、生命倫理に関する国の審議会としての適
格性を欠くと言わざるをえません。しかもこの案を広く公表して国民の意見を募集す
るという、やはり生命倫理に関する国の審議会で確立された手続きを踏まないで国の
施策として決定されるやに聞いております。それもまた国の倫理政策策定として適格
性を欠くものと言わざるをえません。
 以上2点により、この報告書案を国の施策方針として認めることに強く反対いたし
ます。この案に対するパブリックコメントを、厚生科学審議会の名で行い、そこで寄
せられた意見を取り入れた検討を、公開の場で行わなければいけないと考えます。

2)同報告書案では、III(2)○4において、「精子・卵子両方の提供によって得
られた胚の移植を受けることができる」としています。
 私が知る限り、生殖補助医療の公的規制を行う国で、このような変則的な方法を明
示で認めた国はありません。
 倫理的にも、精子・卵子をその人ではなく他者の生殖目的でのみ提供させ体外受精
卵を作成し使用することは、精子・卵子提供者を自らの生殖目的で道具化することに
ほかならないでしょう。次の○5で代理懐胎を禁止している理由と同じです。
 このような変則的な方法を、生殖補助医療を不必要に拡大させることにはならない
と断じる報告書案の結論は、根拠不明で認められません。
 他者の生殖目的でのみ精子・卵子の提供を受け受精卵を作成することを認めるのは
、代理懐胎と同じく、他者を道具化することであり、人の尊厳に反し、生まれてくる
子の出自を不必要かつ非合理的に混乱させるものであり、「生まれてくる子の福祉を
優先する」という基本的考え方に反するので、認めるべきではないと考えます。
 
3)同報告書案は、精子・卵子・胚の提供者の匿名原則を破る対象を一切限定しない
ことで、報道されているように「親友等」からの提供まで認める内容だとされています。
 これは、生まれてくる子の出自を不必要に混乱させ、「生まれてくる子の福祉を優
先する」という基本的考え方に反することだと考えます。提供者の範囲を限定しない
のは審議会として無責任であると考えます。
 同じ東アジア圏の中華民国(台湾)で検討されている生殖医療法草案のように、匿
名原則を破る特例は、親等を限定し世代間関係を乱さない近親に限るべきだと考えます。

4)同報告書案は。「IV 終わりに」の最後で、胚の実験利用については「他の検討
機関において別途検討がなされることが望まれる」としています。
 しかし、たとえば、同案が罰則をもって法律で禁じるべきとしている精子、卵子、
胚の営利目的での授受は、研究目的での営利目的での授受を拘束するものではないと
いうことであれば、2000年12月に公布されたいわゆるクローン規制法が、精子
、卵子、胚の金銭を伴う授受を禁止していないことと合わせて考えると、著しく責任
を欠いた提言であると言わざるをえません。
 さらに言えば、「営利目的での授受」と「有償の(あるいは金銭的対価を伴う)授
受」は異なります。同報告書案は。前者を採ることで、金銭的対価を伴う授受に道を
開こうとしているのでしょうか。それは認められることではありません。
 以上の理由により、法律では、「医療目的であるとそのほかの目的(研究目的など
)であるとにかかわらず、精子・卵子・胚は金銭的対価を伴って授受されてはならな
い」と明記し、違反に対し刑事罰を設けるべきであると考えます。

 以上につき、12月22日の部会にてご検討いただけますよう、お願いいたします。

木勝島次郎(ぬでしま・じろう)
三菱化学生命科学研究所 社会生命科学研究室 主任研究員