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作成:森岡正博 
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臓器提供先に係る生前意思の取扱いに関する意見

ぬで島次郎 (三菱化学生命科学研究所 社会生命科学研究室)

 

○意 見
 「別添 提供先指定に係る生前意思の取扱い」に示された「新たなルール(案)」
の採用に反対します。
 本件に関し、倫理原則を明らかにするための法改正を立法府に求めることを、厚生
科学審議会の結論とするよう求めます。

(理由)
1)医学的必要性に基づいた公平性こそ、それなくしては臓器移植が成り立ち得ない、
もっとも基本となる原則であって、他の理由に優先すべきものと考えます。臓器の
提供先の指定を認めることは、この公平性の原則を破るもので、認められません。
 「臓器移植委員会におけるこれまでの主な意見(未定稿)」にもあるとおり、臓器
移植法は、「献体の意思」の存在を認めただけの献体法と異なり、本人の生前の書面
による意思表示と、家族がそれを拒まないことを、はっきり死後の臓器提供の要件と
定めているので、献体法に由来する本人意思の尊重を唱った移植法第2条第1項は、
冗漫であり必要ないと考えます。そのような存在理由が薄弱な条項を、提供先指定を
認める根拠にするべきではないと考えます。

2)親族に限った指定なら認めうるとの論拠にも反対します。予め特定親族間で、い
わば提供先を指定して行われる生体間移植は、移植医療の中で、本来あくまで緊急非
難的な例外との位置付けをされるものだと思います。しかるに日本では、腎臓・肝臓
を中心に、その例外のほうが実施例が多い現状において、さらに死後の臓器提供にお
いてまで親族への提供先指定を認めることは、移植医療を狭い人間関係の中に閉じ込
め、その健全な発展と社会への受け入れを阻害するものと考えます。
 
3)法に定められた公平性と本人意思の関係という重大な倫理原則を、行政の一部局
が審議会での議論のみで決めることは、正当性がなく認められません。
 わずか2週間に満たない意見公募は、形式だけの儀式と断ぜざるを得ません。
 公平性と本人意思の関係について移植法に規定がないなら、同法を改正してこの点
を明確にするよう立法府に求めるのが筋であり、行政府の責務であると考えます。本
件は、国会での審議を通じた社会的合意の下でのみ決めることができるものです。公
平性と本人意思の調整を明らかにするための法改正を立法府に求めることを、厚生科
学審議会の結論とするよう求めます。

 本意見提出者は、下記のような法改正案が適当と考えますので、参考意見として添
付いたします。
 *臓器移植法第2条第1項は、削除する。
 *同法第2条第4項「移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなけ
ればならない」の、「公平に」を、「医学的必要に基づき公平に」と改める。
 *新たに第6条の二として、次のような条文を追加する;「臓器の提供先を指定す
ることはできない。臓器を提供した者及びそれを受領した者を一度に特定できるいか
なる情報も漏えいしてはならない。臓器の受領者の治療上の必要が生じた場合のみ、
この匿名原則の適用を除外することができる。」

以 上 

2002年3月 (「ぬで」は、木偏に勝)