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作成:森岡正博 
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エッセイ

『朝日新聞』大阪版 2005年12月24日 夕刊・文化欄
幼い心の商品化なぜ許す―ロリコン社会・犯罪の根源・相次ぐ少女殺害事件
森岡正博

 広島、栃木と7歳の小学生の女の子が殺害される事件が続いた。殺された女の子のことを思うと胸が痛む。家族の方の悲痛な心境も想像に難くない。犯人の所業はけっして許すことはできない。
  そのことはしっかりと心にとどめたうえで、考えたいことがある。それは社会のロリコン化についてである。現在の日本のテレビや雑誌やインターネットには、女の子たちを性的な視線で眺め回すような商品がたくさん出回っていて、数多くの大人がそれを購買し、消費して楽しんでいる。呼応するかのように、12歳までの子どもへの性犯罪もここ数年増加傾向にある(警察庁調べ)。その点に目をつむったまま、小児性愛者だけをしたり顔で批判しても、それほど説得力はないのではないか。
  速水由紀子は、ロリコンは日本の「国民病」になったと指摘している。これが誰の目にも明らかになったのは、モーニング娘。が話題沸騰したころからであろう。彼女たちへの視線がきわめて「性的」なものであり、12歳前後の女の子のイメージがいかにして性的商品として堂々と販売されたかについては拙著『感じない男』でも詳述したとおりである。
  ここにきて、その流れは怒濤のように小学生低学年の女の子へと押し寄せてきたように思われる。たとえば、来年1月に発売予定の8歳の女の子のDVDがある。これは著名なインターネット会社のホームページを通して誰でも購入できる。DVDの表紙には、セパレートの水着を着て、プールサイドの椅子に座ってこちらをじっと見つめる女の子の全身が写っている。膝を立てるポーズをしているので、下半身が視野の中心に入るようになっている。文章では説明しにくいが、写真を見れば、そこに性的な意味がこめられていないと強弁することはほぼ不可能であろう。
  この作品を販売するページには、「その他のおすすめ商品」として、女性の露骨な姿態を収めた作品が掲載されている。つまり販売者は、8歳のDVDを明らかにこれらのポルノの「文脈」に位置づけているのである。このような小学校低学年の少女の写真集やDVDは他にも多数販売されている。ネット書店では、「実用度満点」との読者評価も掲載されている。売り上げランキングを見るとかなり売れていることがわかる。
  私がもっとも問題だと思うのは、被写体の女の子たちが、自分の映像がどのように実際に「消費」されているのかを知らないだろうという点である。それを理解するにはあまりにも幼すぎる。と同時に首をかしげざるを得ないのは、彼女たちの親についてである。親は、それがどういう商品となって販売されるのかを知っているはずだ。娘を愛するのならば、なぜこのような商品化を許すのか。
  社会の対応も問題視したい。性的な文脈を理解できない女の子がそのような商品化に巻き込まれることを食い止め、彼女たちを保護する義務が社会にはあるのではないか。
  もちろん現行法下では合法であるし、仮に規制するとすれば表現の自由に抵触する。さらに女の子自身には何の危害も加えられていない。したがって論点は、女の子の実写イメージが性的な「文脈」に置かれることの是非となるだろう。もちろん、性的なニュアンスを帯びた映像を撮られることを含めてだ。
  小学校低学年の女の子の実写イメージを、性的な文脈に置いて商品化することは、たとえ親の承諾があったとしても、一種の虐待とみなして規制すべきだと私は考える。このように言うと、表現の自由を圧殺するファシズムだと批判する論者が現われることだろう。しかしながら、幼い女の子を性的な文脈に置いて商品化してまでそこから利益を吸い上げようとする日本社会は、病んでいるのではないのか。犯罪者だけが病んでいるのではない。社会に遍在する少女への欲望を知覚しながらも、それを黙認し、少女イメージからときおり快楽を盗み取ってきた我々一般市民一人一人に、真の意味での責任があるはずなのである。

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付記:これは2005年12月24日に「朝日新聞」大阪版に掲載され、関西地方+一部中国四国地方に配達されたものである。大阪本社を通じて他地域への配信を試みたが、掲載されなかった。したがって、この記事を掲載時に読んだ読者は上記地方の者のみであろう。全国の関心ある読者に読んでいただくためにここに再掲載する。 

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「感じない男ブログ」にも転載:
http://d.hatena.ne.jp/kanjinai/20060121/1175002703